脳梗塞による片麻痺の鍼治療

  こんた治療院

 

 今回のお話は、脳血管障害の鍼治療、片麻痺の鍼治療についてお話いたします。
 脳梗塞や、脳出血の後遺症で運動障害の問題が出てきます。そうした運動障害をどのように考えてゆくのかを執筆しました。できるだけ病院で使うような専門用語をわかりやすくしながら、どのようにこうした運動機能の障害を治療しているかを紹介いたします。
 

  中枢神経麻痺について

 

 麻痺の大きな分類として、中枢神経麻痺と末梢神経麻痺があります。この中枢神経とは脳と脊髄を指しますが、この中枢神経から枝分かれした神経の枝を末梢神経と呼びます。
 中枢神経は人間のコントロールタワーで、末梢部から送られてくる情報の処理とその答えを末梢に送る仕事をしています。末梢の神経はその先駆けで、より正確な情報を中枢部へ送ったり、中枢からの伝達を正確な答えとして身体の末端へと伝えてゆきます。
  私達の神経は全て、栄養や水分の補給を血管を通じて行っています。こうした血管の詰りや破損によって、血管から神経への供給物資が断たれると、神経の障害として私達のからだから運動する能力や感覚、知覚などといったものを失ってしまいます。これを脳血管障害といいます。
 脳梗塞や脳出血で脳神経への血液の供給が断たれ、担当する神経分野に影響が出た時にはそれぞれの機能障害に名前がつきますが、運動機能(手や足を動かす)に影響が出た場合を片麻痺と呼んでいます。

 

 運動機能における中枢神経麻痺と末梢神経麻痺の性質の違い、痙性麻痺について。

 

 中枢神経麻痺における運動機能障害を治療する際に、一番難関になってくるポイントは、痙性麻痺(けいせいまひ)といわれる末梢神経麻痺にはない独特な筋肉の緊張を示してくる麻痺を持っているという事です。
 この痙性麻痺とは、手や足に特に顕著に見られ、関節を曲げる筋肉に起こり、屈筋痙性麻痺とも呼ばれるものです。これは片麻痺の後遺症において一番の難関といってもよい問題で、運動機能を回復させる為に治療する側が一番除去したい問題なのです。
 例えばこの痙性麻痺の上肢での影響として、手首(手指)や肘が屈曲したまま伸ばす事ができず身体の内側へ抱え込む様になり、下肢では足首が内側へ曲がり(内反尖足)、歩行では足を外側へ回しながら歩く(ぶんまわし歩行)を行うようになってきます。
 こうした痙性麻痺という中枢神経麻痺の片麻痺にみられる麻痺の性質は、末梢神経麻痺には見られず、末梢性顔面神経麻痺の回復時における神経混線(病的共同運動)という特殊な後遺症を除けば、中枢神経麻痺における痙性麻痺は、回復時における後遺症の解決に最重要な課題になってきます。
  そして運動機能の改善の見込みはこの痙性麻痺がどの程度なのかを見る事において、今後の予後が決定されてくるといってもよいものです。

 
手足に起こる屈筋痙性麻痺のモデル
 

 左の写真は片麻痺の左上肢のモデルです。
 総ての関節が痙性麻痺により屈曲位になっています。上肢は体幹に巻き込むようになります。
 こうした場合に肩関節は多くのケースで、亜脱臼がみられます。

 左の写真は片麻痺の左下肢のモデルです。
 こうした痙性の強い下肢は内反尖足(ないはんせんそく)といわれ、足首は内側に反っています。実際にはこうした内反尖足をサポートする為には装具を装着して歩行が安定するようにします。


※写真のモデルは院長がシュミレーションで行ってます。

 
脳血管障害発症から回復期への神経回復過程
 
 
 
脳血管障害発病
ショック期

 血管支配領域の脳神経(細胞)への血液の供給が断たれ、血管支配下の中枢神経機能のダウン。運動神経に関しては片麻痺症状として、ショック期には手足の筋肉の弛緩(しかん)がみられ、体幹の半分も弛緩し、立位を確保する事もできない状況になる。仰臥位にて体位の確保をしながら、痙性期に備えての手足の肢位を確保する。
 

安定期

 意識障害からの脱却ができ、バイタルサイン(血圧等)も安定してくる。ベットサイド上ではリハビリが立位確保に向けて準備。歩行訓練に向けての実質的なリハビリに入る。安定期になると早い人では手足を動かす事ができる様になりますが、歩行はまだできません。坐位確保が目安になります。
 

回復期
初期

 自分で動かす事が少しづつでき、手足の動きがみられるようになりますが、同時に痙性麻痺が起こる時期でもあり、関節の拘縮予防や安静時の体位の確保も重要になります。痙性を最小限に抑えて、神経を回復させる為の努力が更にここから求められます。
 

回復期
中期

 運動神経(末梢神経)の回復のスピードより、屈筋痙性の強調のスピードが目立つ様になり、自然に上肢の関節ならば屈曲位を呈し、手を抱え込むような姿勢をしてくる。下肢においては歩行時に足を振り回す、『ぶんまわし歩行』が見られる様になる。これらは痙性が主導権を握っているために、動作時に各関節が屈筋痙性により運動を抑制し始めた状況です。こうした状況の中で痙性の強さに応じた理学療法の指導方向が決定してきます。
 

回復期
後期

 理学的指導を受けて、自立訓練も日常生活動作(ADL)を念頭に帰宅後の生活がある程度見込める段階になってきます。歩行訓練やぺグボード(指先の細かい動作をボードにコマを差し込みながら修得するもの)を使った訓練をして、日常生活動作で具体的にトイレや食事の指導もしてきます。
 

後遺症期

 退院もでき、自宅にて療養をしながら自主訓練を行います。初期には通院してリハビリの訓練を受けますが、後期には自主的訓練が大半をしめてきます。医療的指導を離れてくると、実際には病院で訓練した指導も忘れ、歩行も自己流になりバランスの悪い歩き方や、上肢の使い方も上手くいかないなどの問題もでてきます。神経回復も終末を向かえて、運動機能も固定されてくる時期でもあります。
 

 
後遺症期の機能改善
 

 こうした神経の機能回復の過程を見ると、後遺症期の改善が非常に困難である事がわかります。上記に書いてあるように、後遺症期では痙性麻痺の固定的状況からは神経回復をしたとしても、運動機能の改善が理想道理に行かないのが解ります。発症してから1年毎にその運動機能の改善の有効率が低下するものと言えるでしょう。
 しかしながら、現在の病院の状況から首都圏や大学病院ならば、附属のリハビリテーションセンターが充実してはいますが、そうでない病院に入院した場合は、こうした機能改善のための施設は無く、入院時からそうしたケアが受けられないという人も多くなってくると思います。退院後のケアも悪く行き場のない人も社会状況においては増える可能性もあると思います。
 そうした中で、こうした私達の取組みが少しでもみなさんのお役にたてるものならば、後遺症期の治療として鍼治療とマッサージを併用してそうした人たちのケアをしてゆく事が大切と考えています。こんた治療院はこうした難題にも積極的に施術を加えながらも、新しい技術を取り入れて後遺症期のケアをしっかりと確立してゆきます。

 

鍼治療のアプローチ(運動機能改善のための)

 
上肢

 上肢への治療内容としては痙性麻痺による屈筋の痙性緩和をしながらも各関節の拘縮を改善、限り無く実用手に近い補助手をめざします。実用手とは正常な手を指しますが、中枢神経麻痺の起こった手は補助手として扱われますが、実用的な補助手を念頭に治療してゆきます。
 肩関節の亜脱臼の改善。上肢が挙上できない原因の1つに肩関節の亜脱臼があります。この亜脱臼の改善も大きなポイントです。
 上肢の腕神経叢にアプローチしながら神経回復を行います。

下肢

 下肢への治療内容は、上肢と同じく痙性麻痺の緩和と関節拘縮の改善。足首においては内反尖足の改善及び足背の背屈改善のためのアプローチ。全体的には、ぶんまわし歩行の改善を念頭に治療をします。下肢の屈筋痙性におけるコントロールは専門的な治療が必要です。

体幹部

 立位歩行に必要なのが体幹のバランスです。リハビリ療養中には良くできていても、自己訓練によって代償性の運動を行い易くなり、歩行や上肢の運動によって体幹部のバランスが崩れます。こうした結果が脊椎の側弯にもつながってきますので、同時に上下肢と共に体幹部(脊椎を中心)にアプローチいたします。

 
脳梗塞の再発予防に関して
 

 脳梗塞という病気は、再発という問題があります。脳血管障害を考える 脳梗塞編 でもお話ししているように、多発性の問題があります。こうした問題にも、もちろん私達の治療のアプローチはあります。いかにして再発を防ぐかという問題に対しても、積極的に治療を加えながら対応することが、こんた治療院の脳血管障害の治療原則です。上記した鍼治療のアプローチ部位に加えてこの治療に関する対応は山ほどあり(知覚、感覚、言語の障害、合併症の存在など)そうした事を確実に1つ1つこなしてゆく事が必要と思います。
 もちろん担当する医師の治療法を尊重しながら、私達の後遺症への取組みを加える事によりさらに皆様の生活が向上する事を目的としたものである事は言うまでもありません。合併している問題なども考慮しながら、こうした問題に取り組む事の難しさを日々痛感しております。

 

 
理学療法(リハビリ)の健康保険適応期間について
 
 

 H18年よりリハビリテーションにおける健康保険適応期間の見直しがありました。ここでは厚生労働省のホームページより抜粋した資料を基にお話をいたします。
 この理学療法における健康保険の認められる期間について例えば、脳血管疾患等におけるリハビリテーション(対象疾患:脳血管疾患、脳外傷、脳腫瘍、神経筋疾患、脊髄損傷、高次脳機能障害等)の治療算定日数の上限は180日となっています。およそ6ヶ月間のリハビリの適応と解釈できます。つまりそれ以上の日数を必要とするものに関しては、保険適応は望めないという事になります。
 おそらく、この問題に対して多くの関係者の困惑があると思われますが、実際に執行されてくると、患者サイドとしては、適応日数6ヶ月以降はどうしたらよいのかという事になります。
 では自費ならばリハビリは受けられるのか?という事については、健康保険診療をしている病院内では、自費診療機関をもうけてはならないとしています。よってこうした規則があるがゆえにそう簡単にはいかなくなってくると思われます。

 
 
私個人の意見として
 
 

 私が40年もの間に麻痺治療にたずさわって理解した事の1つとして、6ヶ月の治療期間でできることの少なさを実感しています。同じ事を理学療法士の先生方も思っていると思います。
 麻痺の回復は時間との勝負が決めてであると思います。しかしながら、私達がサポートする事は沢山あっても、患者さんが実際にできることはその内の数%の内容です。その数%のものを個人差を考慮に、病的回復を考慮に入れて10数%、20数%とアップしてゆくのが機能回復訓練の目標です。しかし、今後は保険適応からみたゴール設定を行うとすると、これからの麻痺の機能回復における理学療法の技術の発展にはつながらないと思われます。
 私は臨床上の事から、麻痺の回復は決して6ヶ月で止まらないという事を強く言いたいと思います。是非とも後遺症を回復する技術を、長いスパンで見届けられる技術を持った先生方がそうした患者さん達にも手を差し伸べられるようにしなければならないと思います。
 私は鍼師、マッサージ師としてそうした患者さんたちをしっかりとこれからも支えてゆく為に、後遺症の治療に全力をあげるつもりです。

 

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