橈骨神経麻痺(とう骨神経麻痺)
 橈骨神経麻痺を考える1
 鍼治療のすすめ       こんた治療院

 

 橈骨(とうこつ)神経麻痺とは、上肢の神経麻痺では比較的多くみられる末梢性の神経麻痺です。
  私が診ている橈骨神経麻痺は圧迫によるものが多いですが、腕相撲による上腕骨骨折や神経切断などの外傷による神経麻痺も多く、橈骨神経麻痺に限らず上肢の麻痺の治療は全般的に行っています。
 そして、鍼治療はその効果が非常によく認められるものと私は考えています。
  今回は最も損傷することが多い、この橈骨神経麻痺を中心に、上肢の神経麻痺を紹介いたします。

 

 橈骨神経(とう骨神経)について
  知識を深める
主に麻痺の起こる神経
 橈骨神経

前腕や手関節、中手指節関節の伸展運動、母指の伸展と外転運動に関与する。そのため麻痺を起こすと、下垂手と呼ばれるように、手首がだらりとなる。

 正中神経

母指の内転と、母指と小指の対立運動に関与する。猿と人間の手の違いは、この母指対立運動ができるかできないかの違いでしかないため、この母指対立運動ができなくなったてを、猿手と呼ぶ。

 尺骨神経

虫様筋という筋肉を支配するため、中指に向かう他指の運動に支障をきたす。すると骨間筋が筋萎縮をきたし、指先の基節骨は強く背屈し、末節骨は屈曲してしまう。このような状態の手を鷲手(わしで)と呼んでいる。

神経経路

 上肢の神経は頚椎から出ています。肩関節を経由して、肘から指先に向けて走行している末梢神経です。

・圧迫や外傷(骨折など)による神経損傷
・腕枕症候群、ハネムーン症候群、サタデーナイト症候群など、
  例えて表現するように腕の圧迫によるケースが多い。
・腕相撲による上腕骨骨折。
・他の重篤な疾患による末梢神経障害として発病
(チャウグストラウス症候群など)
・中毒(鉛)によるもの。
・上腕骨骨折手術後の後遺症。
・その他

 圧迫による橈骨神経麻痺をとりあげます、こんな単純な事で?というケースです。

 
既往歴談
A子さん(20代)の場合

 朝起きるとなんだか右手が痺れたようだった。たぶん、うつ伏せに寝て腕を挟んでいたからだろうと思って、あまり気にせずにいた。そのまま洗面所で歯を磨こうと歯ブラシを取った時に、「あれ!?」と思って、まだ手がシビレているのかな?と今度は不安が強くなりました。よく観察してみると歯ブラシは握れるけど、親指と人さし指に力が入らない、その歯ブラシを口に持ってこようとすると手首がだるくなって力が入らない。なんとか左手で歯を磨くと、会社に行く支度を親に手伝ってもらう。ノーメークで出勤し、上司に状態を話して、社内の診療所へ行くと、もう完全に右手に力が入らなくなっていて、先生に橈骨神経麻痺といわれてびっくりした。色々検査したが、問題はうつ伏せに寝た時の圧迫による神経麻痺だろうという。こんなに簡単に神経麻痺ってなるのか、更にびっくりした。

Uさん(30代)の場合

 長距離通勤で、大好きな小説を毎日読んでいてのことです。ドア側の席に座って、パイプに寄り掛かる様に座っていました。その時に段々眠くなり本を膝の上に開いた格好で、右腕は丁度パイプと私の身体に挟まるようになっていて、そのまま眠ってしまいました。すると床に本が落ちたのに気づき、右手でその本を拾い上げようとした時、その本が上手につかめないので、あれ!?おかしいと思いました。仕方なく左手で拾い上げると、右手の痺れに気がつきました。変だなと思いながら、しばらくするともとに戻るだろうと軽い気持ちでいたら、駅で定期券を出す時には、さらに力が入らなくなっていました。家に帰って翌日病院へ行く時には、完全に力が入りませんでした。眠っていた時間は30分〜40分だと思います。先生もそんな短時間で麻痺になるなんて、可能性はあるけど他の所見も調べましょうということになりましたが、結局は異常なしで、圧迫による末梢性橈骨神経麻痺と診断されました。
 

  コメント

 私が担当した中での既往歴を紹介しています。このお二人のケースは、圧迫による末梢性橈骨神経麻痺のもので、医師の診断結果のもとに鍼治療をしました。年令を見ても、まだ若い人がこのように損傷を受けるとなると、いつ誰でもが可能性があると考えて良いと思います。また、他の例を簡単に紹介しますと、酔って眠ってしまったら朝になって手首に力が入らなくなっていた、狭い場所で雑魚寝をしていたときに発症したなどがあります。これらは睡眠時に、腕の圧迫を体位変換などでカバーできなかった事があげられます。お酒などで酔って眠った時などは、さらにこのような状況ができやすくなります。
 また、原因がはっきりしないケースでは、早急に医師の診察が必要になります。重篤な疾患がひそんでいる事もあるからです。
 


 
 骨折手術(プレート固定、随内釘)処置後の橈骨神経麻痺
 
既往歴談
 Sさん(30代)の場合

 腕相撲により、上腕骨骨折。手術によりプレートで骨折部位を固定、術後に橈骨神経麻痺を発症したと思われる。思われると書いた理由は、こうしたケースで注目すべきは、Drの診断観察能力の問題で、診察時に上腕の骨折ばかりに気を取られていて神経の損傷の有無を手術前に明確に診断していない事が多い、ゆえに手術前から麻痺を起こしていたのか、手術後に起こったのかあやふやな説明のケースが後を絶たない事が私の聴取で多い。結果的に手術後であった可能性が高い事になるのは、その神経麻痺が回復に向かうからである。もし、骨折によって神経を損傷していたならばその回復のパセンテージは著しく低くなるはずであるからである。
 Sさんは、抜糸前に私の所へ来院し患部を直接診せに来ていただき、治療を開始する事になりました。その際に私が指摘した事は、手術した上腕部にはっきりと内出血の跡があった事、手術時間の予定時刻を大幅に過ぎていた事、加えて上肢全体の浮腫と指先の異常な浮腫、つまり手術中の著しい内部の血行障害によって問題が発生したものではないかという事、神経に直接影響する責任血管の問題があったのではないかと想像しました。要するに神経の直接の損傷でなければ、早期に浮腫の改善を行い、細かい血管の再生、不全状態の神経を極端な虚血状況から救う事が必要であると、その先に神経回復が主である事はもちろんの事です。結果的にはこのケースは回復しましたが、非常に困難を強いられたケースであった事も事実。上肢の浮腫を排除しながらのケースは、他にも経験が多いのですが時間的リミットもあると考えていますので、その間に神経の環境も最低限の保持が必要となると考えています。
 後日談ですが、医者も鍼治療の効果を認めて、私のHPを検索していただき、ほっと胸をなでおろした様だったとの事です。お役に立てて何よりです。

 

 Vさん(30代)の場合

 骨折後のプレート手術にて橈骨神経麻痺を起こし、3ヶ月動かないとの事で来院。診察すると上腕部肘関節部に、1センチプレートが飛び出した形で固定されていました。さらに肘関節の可動域も合併的に長期間動かさないために関節の拘縮が発生、加えて肩関節の可動域も制限を受けて痛みが出ている状態でした。原因は、肘関節屈曲位固定(肘が伸ばせないため屈曲位に常時している事、さらに三角巾による固定もあって肘関節、肩関節の拘縮が出ているものと考える。
 このケースはプレートを抜去する予定との事であるが、骨のつき具合が悪いとの事で手術を見送っているとの事、さらに橈骨神経麻痺を起こしている為に手関節はドロップハンド、肘関節屈曲位、肩関節固定による関節可動域制限は慢性の肩関節炎を誘発して痛みが出ている状況でした。病院でのリハビリテーションは温熱療法と軽度のマッサージのみ。明らかに保存的な方法に疑問が残るケースでした。すぐさまに、治療プログラムにこれらのケアリングとリハビリテーションプログラムを加えて、神経回復のための治療を始める。それは、橈骨神経が回復しても関節が拘縮していては、関節を動かす事ができないのであっては、完全な上肢の回復とはいえないからである。早速治療を開始しながら、回復の様子を見ると、本人も納得の状況になって、橈骨神経も回復、三角布も外せる様になる。その後、プレート除去手術を行い、肘関節の完全可動域を確保する治療を行い完全治癒に至る。
  非常に治療の作業が複雑であったケースですが、病院でのリハビリテーションプログラムにも疑問があったので、至極一般的なプログラムをこちらから加えて行ったものです。理療科の混雑もあってなのか??複雑なケースに簡単な理療しか適応しないのはおかしいと思えるもので、ご本人にも医師に相談するべきとのお話をしましたが、一向に対応は変わらずとの事で、対応能力の問題ありと考えています。通常の理学療法士がしっかりしている病院ならば問題なくリハビリしているはずで、私は鍼治療のみすればよいという事で済んだというお話もしておきましょう。

 Jさん(60代)の場合

 転倒後に上腕肩関節部複雑骨折により手術、オペ後に橈骨神経麻痺を発症。上腕部及び前腕部にまで浮腫が著しい状態で来院。肩関節はオペにて可動域制限を受けている状態。術後4ヶ月未だ橈骨神経の動きは無い為に来院。早速治療に取りかかる。まずはやはり、浮腫の除去が最優先課題になる。上肢に麻痺特有の臭い(細菌の繁殖による独特の臭い、片麻痺患者にみられる)が出ているために、神経が完全に落ちているつまり完全麻痺の状態である事がわかる。神経内部の変性状況は極めて深刻な状態と思われる。このケースも浮腫の除去に時間がかかった。浮腫の軽減と共に無事に神経は回復したが、年齢の事もあり手首以下関節の拘縮で細かい動きが出きる様にするのに時間を要したケースでした。
 病院では早々に治療を打ち切られてしまい、まだ麻痺の残った状態で保険適応も打ち切られてしまったそうです。自分で発起して鍼治療を受ける事をして結果が出たという事でしょう。しかし、残された猶予時間も実際はあると考えられるので、もっと遅くに来ていたら治癒は簡単ではなかったと思うケースです。

  コメント

 手術後の橈骨神経麻痺に関しては、みなさん担当Drとの関係を問題にしている様です。ここでは詳しい事は書きませんが、そうしたリスクもあるという事も説明してある事と、神経には傷をつけていないのでいずれ治るはずだという事を繰り返し話すだけとの事で、らちの開かない事に不安でいるケースがほとんどです。理学療法においても、問診すると満足な方法を使わない簡単療法で終わっているという状況です。神経が回復すると担当Drは、言ったとおり良くなって来ましたね。と話すそうですが、患者さんからの強い意見として鍼治療をしたからですよ!先生は言うだけで何もしていないと話すと、正直に鍼治療の効果を認める先生もいる様です。先生もきっと神に祈っていたんでしょうね。でも、私がここで言いたいのは、患者さんの皆さんが、がんばったからだという事です。鍼治療は神経麻痺に効くなんてことは、私にとっては重要ではなく、みなさんがそれによって回復したという事で満足なのですから、それで良いと思っています。もし、そうした事で悩んでいる人がいたら、是非とも鍼治療したいただきたいと思っています。


 

  橈骨神経麻痺の治療について
 
治療指南
鍼治療を是非やってみましょう!

 このような末梢神経麻痺の治療には、鍼治療が非常に効果があります。治療開始は早期であればなおさら回復の見込みは、早いと言えるケースが多いでしょう。ただし、数回の治療でという簡単なものではありません。神経損傷の具合によって判断されるものです。安易に考えず、しっかりした回復へのケアプランを立てる事が大事になります。

鍼と併用してマッサージを行う

 鍼治療と共に、こんた治療院では併用してマッサージを加えて行きます。神経回復の為のアプローチと神経支配の筋肉の萎縮を防ぎ、神経回復以前にの各部の運動能力を低下させない為のアプローチを同時に行うのです。

自分で動かしてみましょう!(自動運動)

 少しずつ動くようになったら、担当する先生の指導を受けてリハビリをしましょう。病院だけでの治療でなく、毎日コツコツと自分の為にあせらずゆっくりと動かしましょう。私は自分では顔面神経麻痺になったことがありますが、その時に、なんでこんなに動かないものなのかと、イライラした経験があります。しかし、やはりコツコツとやる事に意味がある事はその回復と供にわかってきました。ぜひやってみましょう。
橈骨神経麻痺を考える2<骨折による>
橈骨神経麻痺のリハビリの仕方


疲労には注意!

 麻痺している筋肉が過度な疲労をきたすと、今度は回復においてブレーキになる事があります。このため、麻痺をした神経と支配されている筋肉の回復状態を見極めながら、担当の先生の指導のもとに運動や社会復帰の為の計画を考えましょう。

 

 橈骨神経麻痺の生活について

 
生活指南
お仕事

利き手の損傷の場合は極端な労作をさける。神経が回復してくると少しずつは自分で動かす必要はありますが、神経回復が完全でないため、筋疲労も想像異常にはやく起こします。そのために、あせらずゆっくりと社会復帰をこころがけましょう。しっかり治療すれば後遺症も防げます。

生活

冷やさないように気をつける。
筋運動が出来ないために、末節からの血行もよくなくなります。すると冷えた感じなどがする方もいます。特に冬場などは外出する時は、手袋などで保護してあげましょう。
気分転換をこころがけましょう!病気からくるストレスを上手に排除しましょう。イライラや不安感を取り除く事は、疾病を駆除するのと同じ意味を持ちます。お休みの日などはゆっくりと身体を休めましょう。

回復

鍼治療をすると回復の速度がはやまると思われます。そのほとんどの場合、発症から2ヵ月、3ヵ月経って治りに不安を感じている方が来院して来ます。鍼治療をもっと早期に施行していればと考えるケースがほとんどです。そのために神経回復と同時に、手指の関節や腱、神経支配領域における筋肉のケアも入念に行う事態になってきます。つまり時間の経過とともに合併して起こる問題が現れてくるという事です。
 発症して自然に2ヵ月で回復したという方もいますが、症状が軽いケースと考えるべきでしょう。

 
 
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