顔面神経麻痺
 顔面神経麻痺を考える8 
 顔の体操と運動は、いけない 
  こんた治療院

 今回は、顔面神経麻痺のリハビリについて、私の考えと独自の治療概念をほんの少しお話したいと思います。

 病的共同運動を強調する

 病的共同運動については、顔面神経麻痺を考える6にてお話してありますが、こうした問題を更に深刻化させているのが、自分で行う顔の運動や、低周波による電気的刺激における筋運動が病的共同運動を強調するという事です。
 この件につきましては、私が長年言い続けている事で、そのためにどのような対策をしいているかは、この<顔面神経麻痺を考える>で執筆し続けておりますが、同時に35年以上前からそうした治療の工夫を重ねています。しかしながら、こうした事は難関な問題であり簡単にはいかないのが現状です。
 情報の錯綜もあり、麻痺のショックもあり、良いといわれる事は全て実行することが、私の治療の妨げになっている療法も少なくはありません。
 そこで、1つ専門的なお話を交えて、今回のコンテンツを書いてみました。

 リハビリのあれこれと運動に関して

 一般的に運動器(手や足)を動かすリハビリは、その中心的存在は関節にあります。この関節を動かす為に筋肉が存在し、末端では筋線維は腱になって細かい動作をサポートします。
  一般的に手足の末梢神経麻痺の場合は、こうした関節に起こる拘縮や強直を防ぐのと同時に筋萎縮の予防をしながら神経の回復を待ちます。テクニック的には関節ができる運動を他動的に関節を使って行う事ができ、その運動は比較的簡単に実行できます。その為に自主訓練も可能な事が多くなってきます(脳血管障害の痙性麻痺を除く)。
 しかし、顔面神経の場合は関節を使ってできる筋運動(筋支配)はなく、顔面部の表情筋は関節を持っていないために、まず顔の運動は正確に行う事が非常に難しいと考えます。強くいえば、関節を持たないので、正確な表情筋の運動を外から指導できないという事になります。
※ 頭部の筋肉は浅頭筋と深頭筋に分けられ、顔面神経の支配する表情筋は浅頭筋に属します。顎(アゴ)を動かす咀嚼(そしゃく)筋は深頭筋に属し、三叉神経第3枝の下顎神経が担当します。
  そして、麻痺した顔を自分で動かそうとすると、こうした事から総べて代償性の運動を行ってしまうと考えられるのです。この場合の代償性の運動の意味は、現在動かせる筋肉だけを使って、擬似的に表情を作るのです。擬似的に引っ張られた筋肉に対しての神経の回復の結果が神経混線だとすると、無闇な動作はこうした神経再生に神経混線という状況を起こすのではと考えられます。また、低周波治療における長期的使用により、病的共同運動の強調の問題、自動運動(自力で行う)および、他動運動に関しても正確性を欠いた運動ではこうした問題点は解決できないと私は考えます。この事に関してはコンテンツで更に詳しく説明しています。<顔面神経麻痺を考える21 不随意運動と随意運動>です。
 通常の神経の回復においての再生の仕方は、骨の溝やコラーゲンなどを道筋に再生されますが、顔面神経の場合は上記に書いたとうりに、関節やそうした道筋になるものがとぼしいと私は考えています。
 顔のリハビリという事になると、こうした点の不正確な問題がある以上、正しいリハビリができないという事を私は考えています。

 では、どうしたらよいのか!

 こうした問題に対して私は鍼治療を通じて、麻痺した神経の回復を考えた治療をしてきました。誰もがさじを投げた患者さんも、ほんの一筋の明かりを頼りに私のところへやってきます。いま私ができる事は本当に少ししか無いけれど、それでも全力で麻痺と戦いたいという思いが皆さんからもひしひしと伝わってきます。
 まず、私がすることは、この顔面神経麻痺に対する知識を説明する事、そしてこれからどのように管理して行くか、どのような点を注意するのかなどを時間をさいて説明して行きます。もちろん、心のケアもこの問題には非常に重要です。そうしたなかで、現実と向き合う事ができてくると、麻痺の精神的ショック状態から脱却でき、これからの事を冷静に考える事ができてきます。これがとても大切な事と思います。
 次に、治療に関しての総ての質問に適確にわかりやすく答える事。こうした事は先の医療機関などにおいて、説明不足による不安や相談に対する解答の粗雑さを訴える人が多い為に患者サイドでは困惑し、信頼関係を持たぬままの治療をまた続ける事になるので、こうした点をはっきりとする。
 そして、個人におけるケアを1つ1つアドバイスして管理する事が大切と考えています。この個人におけるケアは、回復の速度や原因における神経の損傷度、回復のパターンによって細かくは違ってくるのです。その中で、病的共同運動の極力の回避を行う事が大切になると考えています。単に顔の運動はしないようにという事ではなく、こうしたケアの中に1つの方法と私の考える持論により、鍼を通じて治療をしているのが私の現状です。
 幸いにして顔の筋肉は他の器官につく筋肉と違って、血行性に恵まれておりますので、筋萎縮が早期に進む事はありません。下肢や上肢の筋肉においては比較的早期に筋萎縮が出てきますが、顔に関しては骨格筋と違って、表情筋という筋線維は網の目のように張り巡らされた血管によって、数カ月間のでの回復を待てる状況だと私は理解しておりますので、慌てて無理な運動は必要ないと考えております。

 顔に動きが3ケ月以上経ってもみられない

 一般的に、ベル麻痺の回復において教科書的には2〜3ヶ月と書いてあるのですが、実はこの文章にも非常に曖昧な点があります。というのも3〜4ヶ月という期間を経て、ベル麻痺と診断された人が動き出したという事は珍しい事ではないのです。
  私的には原因不明のベル麻痺であっても、神経の損傷度と回復の条件により回復の時間を設定するのが基本であり、その情報は教科書に従うのではなく、個人の症状に対応させる事が望ましいと考えます。この件についてはコンテンツ<顔面神経麻痺を考える19 回復の条件>にて説明しています。
 皆さんの参考になればと思い、ここに私の別の麻痺の回復についてお話しします。それは橈骨(とうこつ)神経麻痺という手の麻痺です。この麻痺の原因で一番多いのが、圧迫による麻痺です。その昔はサタデーナイト症候群、ハネムーン症候群などと言われるもので、腕枕(うでまくら)により神経が圧迫されて麻痺が起こるものです。また、電車で数十分居眠りをしていたら手が麻痺したというケースがあります。
 こうした麻痺のために要した時間の最短で、15〜20分の圧迫において完全に麻痺する事が解っています。腕の神経と腕に行く動脈の同時圧迫が、こうした麻痺の主な条件です。ここで皆さんに一番聞いていただきたい内容はその回復に要する時間です。ほんの数十分の圧迫であっても神経が麻痺をすると、神経そのものは回復をするのに完全麻痺の場合において1ヶ月以上もかかります。3ヶ月以上動かないケースも、もちろん存在します。
 こうした顔面神経麻痺の回復状況の中に、やはり一番大切になってくるのが治療経過の観察です。私の掲示板や相談メールでも、『治るのか?』という質問が一番多いのですが、私自身が観察経過を診ていない以上は答えが断じてできない事はこうした経過観察(診察)をしていない人に対しては答えてはならない内容なのです。神経麻痺の治療の一番難しいところでもあるのです。

 PS ベル麻痺とラムゼイハント症候群

 ベル麻痺とラムゼイハント症候群の問題においては、実は90年代の後半から研究者の手においてベル麻痺と診断された人の中には、耳の中に水疱ができないタイプの水痘ウィルス、つまりヘルペスゾスターウィルスが関与しているという記事を見た記憶があります。動物実験において実証したという事が記憶の中に残っていて、ヘルペスによって人工的に麻痺を起こす事ができるのか?と思いました。私の記憶力に頼っては本当に弱いものがありますのでこの程度ですが…。
 その為にベル麻痺の治療に抗ウィルス薬とステロイドを同時投与する先生も多くなっているというお話です。
 行く末はもっとベル麻痺とラムゼイハント症候群との早期診断ができるようになると思いますが、何にせよ私の仕事は、麻痺になった神経の回復ですから、その神経の回復にこれからも力をそそいで行きたいと思っております。
 中枢神経麻痺、末梢神経麻痺、各種特異麻痺を多く取扱っている私ですが、この顔面神経麻痺治療も私のライフワークの中心になっている事は確かです。



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 顔面神経麻痺に関係する執筆内容のページです。是非読んでみて下さい。
 こんた治療院 <治療の窓>より抜粋しました。
 毎日、診察の合間にコツコツと執筆しながら早23年が経ちました。皆さんに1つでもお役にたてる事がありましたら、幸いと思いながら、今も尚治療の合間に書き続けている内容です。全国の方から色々な御質問などいただき、毎日心を込めて返信しています。そうしたみなさんの力で、今日まで一生懸命やっていて良かったと思うのは、インターネットのすばらしさの1つだと考えています。

 シリーズ
 顔面神経麻痺を考える

6.1 後遺症各論
<病的共同運動の強調>

7 小児の顔面神経麻痺
:ケア編

8 顔面体操と
顔面の運動は、
やってはいけない

10 顔の痛み 三叉神経痛

21 随意運動と不随意運動

23 やっつけに行く
今回は、
鬼軍曹の
独り言ですか?


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