顔面神経麻痺
顔面神経麻痺を考える22
顔面神経麻痺における
水痘ウィルスの知識

           こんた治療院

 顔面神経麻痺における水痘ウィルスの知識について、今更ながらですが私流の話し方で皆さんに解説いたします。


 水痘ウィルス(Varicella Zoster virus)

 水痘ウィルス(Varicella Zoster virus)は、帯状包疹を起こすウィルスと同じものであり、過去に水疱瘡(みずぼうそう)に罹ったり、予防接種を受けたりして、人間が自ら保持している状態(抗体)のウィルス、そしてそれが人の体外に出て感染を起こすウィルスの総称を指します。
 一旦 人の身体の中で抗体となったウィルスが、何らかの原因でDNA増殖を起こしてしまうと、局所的にその潜伏先にあたる神経部位に障害を与える事がありますが、顔面神経の場合はラムゼイ・ハント症候群として顔面神経麻痺を起こさせます。
 感染によってラーニングされた水痘ウィルスは死滅するのではなく、人間と共存という形をとっています。その潜伏滞在先をサテライトといいますが、このサテライトは人間の組織の中の末梢神経を選んで潜伏しています。とりわけ各神経の神経節と呼ばれる末梢神経の部位に好んで潜伏しています。
 先に述べたこのDNA増殖とは、簡潔に言うと 自らのコピーを増やしてゆく増殖で、子を産んで増えるインフルエンザウィルスの様な増え方(繁殖)をしないものです。

 水痘ウィルス(Varicella Zoster virus)による顔面神経麻痺の場合

 水痘ウィルスによる顔面神経麻痺の場合は、その水痘ウィルスの潜伏先である顔面神経を中心とした膝神経節をサテライトとして増殖し、神経に機能障害を及ぼす。これをラムゼイ・ハント症候群(Ramsay Hunt Syndrome)といいます。
 平成26年以降、現在。ラムゼイ・ハント症候群の診断には、血清検査を用いる医師が増加傾向にあるために、耳の中に包疹を認めなくとも血清検査の結果で、水痘ウィルスの活性化が認められれば、ラムゼイ・ハント症候群と診断される様になりましたが、以前は 顔面神経麻痺発症後、3〜4日して現れる耳の中の発疹と水泡の有無が基準になっていました。
 しかしながら、この血清検査で単純ヘルペスウィルスの数値も同時に上がっている例も少なくはないのです。単純ヘルペスウィルスは1型、2型とあり、この水痘ウィルスと非常に良く似ているもので、ちなみに、口唇部に自然にできるヘルペスの多くが1型である。そして2型は陰部にできるヘルペスであるが、30年ほど前より性行為に関しての変化が日本にもあり、2型のヘルペスが口唇にも認められるケースも珍しくなくなって、性行為感染症(STD)の1つになっています。
 未だに診断的判定に苦しむいわゆるベル麻痺にも、何らかの道筋が今後みえてくる様になるのかどうかです。

顔面神経麻痺と合併して起こる他の神経障害
 水痘ウィルスが起因した多発性脳神経障害

 水痘ウィルスは、上記に述べた通りに神経節という部分に平素は潜伏して人間と共存しているウィルスであるが、何も顔面神経の膝神経節のみに潜伏しているだけではありません。そのため顔面神経のみ単独で麻痺を起こすだけでなく、同時に反回神経麻痺として、片側の声帯の麻痺が起きて声がかすれる、前庭神経障害として目眩(めまい)が起きる、三叉神経痛として顔に痛みが出るなどのケース(多発性脳神経障害として)もあります。単独では肋間神経に起こる帯状包疹、下肢に起こるものは坐骨神経にも障害を起こします。
 また、水痘ウィルスは末梢神経のみを侵すウィルスではないこともお話しいたします。
水痘ウィルスは中枢神経系合併症として、1つは小脳炎に注意が必要です。小児の初期感染では急性小脳炎を起こす事もあります。
 2つめは 再活性した水痘ウィルスが原因で血管炎に伴う脳梗塞を小児や成人に起こすケースです。
特にこのケースは再活性した局所に注目しなければならず、それは顔面部であること、そして先に、三叉神経痛も水痘ウィルスで起こると書きましたが、この三叉神経痛でも水疱が帯状包疹として、三叉神経 第1枝(V1)領域に起こったものは特に注意が必要で、成人においては脳梗塞を数週間経過で合併発症する事があるので、急性期には引続き医師の経過観察が重要です。
  ラムゼイハント症候群と診断された、顔面神経麻痺においても同様の注意は必然の要素と考えて欲しいと思います。そして、こうした事も念頭に入れて、医師が経過観察中に診ていて下さるというお話として書き記しておきます。また、小脳炎は自己免疫疾患で、ギランバレー症候群、フィシャー症候群などの問題ですが病原体としての候補として水痘ウィルスも昨今は考えられている様ですが、原因が証明できないのが現状です。

 但し、非常に不思議なのは、ほぼ局所の部分的な水痘ウィルスの増殖障害であるという事で、全身に行き渡って神経の増殖障害を起こさないのは、なぜなのかという疑問もあります。血清検査上は反応しているのに、発症部位は局所であるということです。これは、今後解明されてゆく内容の1つであろうかと思います。

近年は顔面神経麻痺の診察を耳鼻科で主に診る様になった理由として

 耳鼻科での顔面神経麻痺の対応力は、やはりこのラムゼイ・ハント症候群における様々な合併も第一の要因になりますが、その他に耳鼻科領域の原因で顔面神経麻痺を起こす事もある為にその対応力が他の科よりあると考えます。
 例えば、聴神経腫瘍や耳下腺腫瘍が進行して重症化すると、腫瘍が顔面神経を圧迫して顔面神経麻痺が起こります。本来このような麻痺の場合には、先に別の主症状が優先して訴えてきますが、まれにこうした症状も軽度の場合もあるために、悪性の可能性を否定するには耳鼻科医の高診が必要になってきます。
 また、ラムゼイハント症候群で顔面神経麻痺になると同時に、水痘ウィルスは反回神経(迷走神経)麻痺を起こして、患側の声帯が動かなくなり、夏声(声がれ)誤嚥などの症状を訴えたり、前庭神経の炎症による回転性のめまいを起こしたりするので、こういった事も診察の必要な事があるために耳鼻科での診察は先手と考えられるでしょう。
 近年は顔面神経麻痺の診察を耳鼻科で主に診る様になった理由としては、こうした事の理由が考えられるでしょう。
耳鼻科から別の科へ転送されるケースもありますが、ここでは割愛いたします。

水痘ウィルスが神経を損傷する破壊力は大きい

 ラムゼイ・ハント症候群であることが解ると、その神経の損傷はかなりのものであると専門家なら誰でもそう思うのは、回復にかかる時間がベル麻痺に比べて平均に倍以上必要とされるからであり、後遺症の可能性が高くなる事も含めて予後の悪さを想像されて患者さんに告知されます。しかし、初めて罹った病気で治った人も大勢いるとされる顔面神経麻痺なのに、どうして医者の発言はネガティブなのだろうか?と思う人は少なくないのではと思います。
 その医師のネガティブな発言の意味は、水痘ウィルスの増殖における破壊力は、神経にとって非常に致命的な損傷を与えるパーセンテージが高いからである事で想像がつくのですが、患者さんの病気に これから克服して行く勇気を、心が折れたスタート状態からでは別の問題も合併してくる事も充分想像のつく事であると思います。
 そこでどれだけの神経の破壊力を持っているのかを皆さんに紹介するために、私は『顔面神経麻痺を考える20』で、不全麻痺と完全麻痺という題で神経の損傷度を神経損傷を分類して紹介しています。これは、私がなぜ鍼治療が神経麻痺に効果があるのかを1つ1つ解りやすく解説するために作成した1つのコンテンツですが、だからこそ、何を今するべきなのかを解ってもらえると思います。私がなぜここまでこだわって顔面神経麻痺の治療に専念するのか、それは重症とされた患者さんの神経麻痺を、患者さんと一緒に鍼治療で治してあげたい、その一心で専念しているからです。
 水痘ウィルスの破壊力はすごいと思いますが、実際 臨床現場ではそれを乗り越えて神経再生している患者さんの姿を見ている自分には、神経の回復力のすござを痛感しています。

 以下、『顔面神経麻痺を考える20』で、すでに紹介した表ですが私が自分で応用しているものです。 

損傷度
 
1度

 1度の神経の回復状況

 ニューロ アプラクシア(neurapraxia)と呼ばれる段階で、神経伝導路上の部分的な伝導障害を指すもので、神経本体の受傷は極めて軽度であり、神経の軸索の異常もない。よって神経の再生は行われないし、神経変性もない。
  筋肉の動き出し、いわゆる回復に要する時間は数時間、数日、数週といった状態で筋運動が認められ、3ヶ月以内に完全に運動機能が回復するものである。
 結果的に何もしないで、自然に麻痺が回復できるものである。

 私的コメント

 いわゆるベル麻痺や血管の炎症で起きた神経障害で、発症後2週間以内程度で微弱な筋運動が認められるものです。この損傷度に関しては、完全回復が多いに期待できるものです。この回復に関しては不全麻痺であったと言えるでしょう。
 他は外的圧迫による、橈骨神経麻痺、腋窩神経麻痺などもこのケースに相当します。
 神経の圧迫や血管の炎症によるものでも、長時間に及び原因の解除ができない場合は、3度の損傷といえるケースもあり、病因だけでは予後の判定は困難である。

2度

 2度の神経の回復状況

 本来axonotmesisとは神経軸索の断裂を意味するが、顔面神経麻痺の原因において、ウィルスの神経を損傷する内容においては、断裂とは言いがたい。神経の内膜や周膜には損傷はそれほど及ばないものである。そのために回復は良い。
 筋肉の動き出しに関しては結果的に3ヶ月以内ならば、損傷度1に相当し、3ケ月以上経過しても動きがない場合は、次の3度以上となる。

 私的コメント

 神経の軸索が断たれている状態ではあるが、その周りの神経を包む神経内膜、基底膜、神経周膜、神経上膜には問題がないとされる。このケースでは恐らく動き出しは1ヶ月ないし2ヶ月と考えられる。この動き出しに2ヶ月前後経過したケースにも1度の様に完全に回復できたケースも多数あります。

3度

 3度の神経の回復状況

 3度は神経軸索と神経内膜が損傷しているが、神経周膜が保たれている事を意味する。
 神経の軸索の再生が不完全な状態で終わるケースが出てくる。不完全とは本来の受容器に神経の再生が到達せずに、病的共同運動などのミスマッチが発生し易い状況である。

 私的コメント

 顔面神経麻痺の場合は部分的に動かない箇所が出て来ているものがある。これは比較的太い神経の枝に再生が診られるが、末端に近く細い神経枝の回復が診られないものが多くなってくるからである。局所的には、口(口輪筋)や額、上眼瞼の閉眼不全にその状況がみられる。それと同時に、病的共同運動が診られる状況でもある。
 末梢性の顔面神経麻痺の原因でベル麻痺、ラムゼイハント症候群、その他、自己免疫疾患、血管炎などの病因におけるケースでは大凡がここまでの損傷度である。

4度

 4度の神経の回復状況

 4度は外見上には神経幹が存在し、神経上膜は保たれているものの、その内部である神経周膜、神経内膜、基底膜、軸索が大きく損傷し変性が生じているものであり、神経回復は認められないために、外科的な処置(神経移植術)を勧める段階である。

 私的コメント

 外科的処置における聴神経腫瘍、耳下腺腫などのopeで顔面神経を温存する手術の結果で、神経再生(筋運動の動き)が全く見られないケースがこの4度になります。
 5ヶ月がその目安の1つとなるだろうと考えています。

5度

 5度の神経の回復状況

 5度は神経組織の肉眼的断裂が確認できるものです。nurotmesis。

 私的コメント

 外科分野にての処置が主である。神経腫においては軽度から重度まであるが、このケースは重度である。

 以上が私が臨床考察に使っている神経損傷度の考え方の簡単な指標です。顔面神経麻痺におけるベル麻痺や、ラムゼイハント症候群に関しては、1〜3度までがそのほとんどの症例の対症の可能性になります。4度〜5度は一応に私が日常取り扱う問題にも関与しておりますので、参考程度で書き込みました。

 

これからもさらに重症なケースの追求を緩めません

 私は重症である完全麻痺の顔面神経麻痺の治療には、まだまだ様々な事が足りないと思っています。その様々な事の1つとして原因の事、損傷した神経の回復の為の事、後遺症の事、他の疾患との因果関係など、まだまだ足りない事があると思っています。病気の事を臨床を経て深く追求する事によって、次世代への後継として役に立つ事は、私が専門学校の講師や、各講習会の講師で経験をしていますが、医科学はまだまだ解らないことが沢山あり、過去において良いとされていたことは現在はNO!であることも多数であり、医学は現在進行形の学問だと考えています。
 そして、医術もその進行にしたがって熟成させるべきものとして私は考えていますので、私の行う鍼治療の術も同じく、その進行形の中にあると思っています。



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 こんた治療院 <治療の窓>より抜粋しました。
 毎日、診察の合間にコツコツと執筆しながら早17年が経ちました。皆さんに1つでもお役にたてる事がありましたら、幸いと思いながら、今も尚治療の合間に書き続けている内容です。全国の方から色々な御質問などいただき、毎日心を込めて返信しています。そうしたみなさんの力で、今日まで一生懸命やっていて良かったと思うのは、インターネットのすばらしさの1つだと考えています。

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 顔面神経麻痺を考える
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