顔面神経麻痺
顔面神経麻痺を考える21 後遺症編
随意運動と不随意運動  こんた治療院

 顔面神経麻痺の治療における方法で、顔の体操や顔を動かす運動に関して、私の意見として 、やってはならないとしてきました。その理由として、病的共同運動の強調という事を提示してきました。
 顔の運動というものを少しでも理解でき易い形で、今回みなさんにお話を書いてみたいと思います。同時に麻痺した神経を回復させるためと称して筋肉の運動をする事は、どのような負荷がかかるのかをお話ししてみたいと思います。


 第一章   表情筋の運動 
 <不随意運動と随意運動>

 顔の筋肉を動かす、即ち表情をつくる と皆さんは考えますが、本来は無意識的に行っている動作こそが表情という言葉がふさわしく、意識的に行っている動作は目的を持って動いているものであるという認識でこの文章を読んでいただきたいと思います。
 もう少し解り易く言うと、泣いたり、笑ったり、起こったりすると顔の筋肉は変化を見せます。気持ちの表れが顔に出たものは、本来人間が無意識の動作として顔の筋肉を使う運動、即ち不随意運動(ふずい)と言います。顔の場合は、目を反射的に閉じる瞬き(まばたき)もこの不随意運動です。
 そして、意識的に行っている動作は随意運動と言いますが、ものを食べたり、言葉をしゃべったり、写真を撮る時に故意に笑ったりとすることは皆、随意運動になるのです。
 つまり、顔における運動とは、この不随意運動と随意運動の両方を受けており、顔面神経麻痺の場合にはこの2つの運動を失う事になります。そして、みなさんがリハビリと称して顔を動かそうとして行う運動は随意運動であり、2つの運動のうちの一方の運動だけを積極的に行う事になっているという事です。
 日常生活の顔の筋肉の動きは、この不随意運動と随意運動の混合とも言うべき状況で、その運動の入れ替わり変化速度は敏速に行われています。これは、顔面神経が脳神経の直属であることに由来していると考えます。言葉をしゃべっている中でも瞬きをしたりもできますし、涙を流しながらもお話もできます。こうした顔の動きは、非常に精密な神経の伝達の交換によってなされています。手や足の伝達は脊髄を介して行いますが、顔面神経はその直属が脳であるためにその伝達交換の速さは優れた正確性を持っていると考える事ができます。お話の後半ではこうした生理的に伝達されていたものが病的になるとどうなるかという事も、少しお話したいと思っています。
 さて、ここではリハビリと称して顔を動かそうとして行う運動(随意運動)は、2つの内の1つだけの運動を積極的に行っていると書きましたが、さらにポーカーフェイスでいることが病的共同運動を起こさない事に役立つとされた理論はもう1つの不随意運動をもさせない事につながります。
 顔の筋肉を動かすのは、随意運動と不随意運動から構成されているという事は大事なポイントです。
 こうした中で、私の理論は27年以上変わらず、顔は自然のまま、特に運動はいらない、鍼治療とマッサージの併用で充分にケアできるとしています。

神経の伝達が行われてこそ、筋肉を動かす!

 私が常日頃から診察の時に皆さんへお話する事を少しだけ紹介いたします。それは『神経麻痺というのは、神経の麻痺であって筋肉の麻痺ではないという事』です。その意味は皆さんが行おうとしたリハビリ、強制的な随意運動をさせないためにあえて言葉にして話す事です。
 さらに噛み砕いて説明するならば、神経が伝達機能を回復させなければ筋肉を動かす事ができないし、その様な現在の麻痺した状態で随意的運動をさせているという状態は、コンセントの差し込まれていない掃除機を一生懸命動かす事と同じである とまで言い切ってしまいます。そして仮に30%の伝達力(顔が少し動いてきた状態でも)があっても、みなさんが口を尖らせたり、開いたり、目を閉じたりするなどの運動は、その目的に達するまで100%の表現を、神経を介して顔の筋肉に思いきり力をかけてきます。
この事が後に問題となって、病的共同運動の強調をさせていると私は主張しているのです。そしてこの事は大きな2つの意味を含んでいます。

 その1つとして、完全回復していない神経と筋肉に100%の要求をする事はあってはならない。

 神経が脳を介して、伝達力が(自分の要求に対して)30%しか出せない時に、みなさんは随意運動を使ってもっと動く様にと100%の要求をつきつけてきます。さて、ここで考えて欲しいのは、30%の答えしか出せないのに、100%を要求すると どうなるかです。答えは至極簡単ですね。差し引いた70%が神経にとってストレスになっている事に、みなさんは気がつくでしょう。そして、脳は自分が求めた末梢への伝達を、末梢は無理にでもなんらかの納得のゆく形で脳(中枢)に答えが出せましたとその達成できた証の信号を擬似的にも返してゆくのです。
 一般的なリハビリテーションの随意運動における指導は、こうして創られた擬似的な動作を見抜き、トリックモーションに転じる前に指導を入れて正当的運動を行う様にさせていきます。ここで、興味深いお話をすると、橈骨神経麻痺という上肢の神経麻痺のリハビリにおける観察で、橈骨神経を使った動作を表現させようとすると、もぞもぞと手を動かしながら、間もなく その他の神経を無意識に使う動作をほとんどの人が行います。その他の神経というのは、正中神経と尺骨神経という2つの神経の動作です。そこで私は、今 指示した神経を使った動作では、実際は動かない事が正解であるので、動かないからといって更に無理に力を入れる必要はないと毎回指導を入れます。興味深いのは、一旦動かないと判断した伝達をカバーするために、さらに必要以上に力を加え出して、全く違った神経を動かす事で代償しようとする動作が出る事です。中枢神経麻痺、脳梗塞や脳出血などで片麻痺(かたまひ)となって、運動機能障害を持った人も同じく同様の代償性の運動を表現して来ます。
  はたして、この様な状態を強制的に続けるとどうなるか、このストレスはどのように回復に関して足かせとなるのか、ここが本当に大事なポイントです。
 以前のコンテンツにも書いていますが、代償性運動、トリックモーションなどの運動は、この100%達成できなかった末梢への要求に対しての中枢への擬似的信号の表現であるという解釈を私はしています。つまり、ここでいうストレスの変換ともいうべき行動で、脳を納得させるための擬似行動です。簡単な図で説明してみましょう。

 図1の画像は、肩関節の可動域に問題がある人をモデルにしています。一番左側のモデルは、肩関節の可動域の現在自分でできる最大の運動範囲と考えて下さい。肩に痛みがあってここまでは正常に腕を挙げられるというポジションです。
 さてその様な人に、こちらから改めて指示をこの様に出します。『がんばって挙るところまで、腕を挙げて下さい。
 すると図の右側の様に体制を崩しながらも腕を高く挙げようとしてきます。肩関節を使って腕を挙げるという動作を、無意識に体制を変えて本来のポジションと違うポーズを表現します。
 この様な動作は、一般的に多く見られる動作です。

 この図における様々な意味が本来沢山あるのですが、今回は割愛させていただきますが、注目して欲しいのは、『肩関節を使って腕を挙げるという動作を、無意識に体制を変えて本来のポジションと違うポーズを表現します。』という所と、この時に必要以上の力を使っている事なのです。このケースでは肩関節の痛みというケースですが、痛みというものが患者のブレーキになって限界域を表現してきますが、神経麻痺の場合は痛みというブレーキが無く、更に神経支配が不完全なために更にこれ以上の負荷が神経と筋肉に余分な力としてかかる事はお解りいただけると思います。この様な状態で、初期段階から顔の運動を指示していると、本来の動作にないものを取り入れて運動しているという事も気づかれると思います。
  不全麻痺の場合はこの様な動作を仮にしていたとしても問題は軽度ですが、完全麻痺の場合には病的共同運動が強調する可能性が極めて大きい要因の1つになってきます。

 その2つとして、顔の筋肉に思いきり力をかける事は随意運動を強制的に行っている事。

 文章の最上段では随意運動と不随意運動の事をお話ししましたが、最もこの運動が交互に行われている箇所があります。それは目を閉じるという動作、閉眼です。
 眼を不随意的に閉じる動きは、反射的不随意運動です。皆さんが無意識でいる時に反射の作用によって上眼瞼(うわまぶた)が閉じているのです。そしてみなさんが意図的に強く力を入れて眼を閉じようとする動きは、随意運動であり。この2つの事により閉眼といって眼を閉じる動作を担っています。
  この不随意的な閉眼と随意的な閉眼における大きな違いがあります。それは随意的な閉眼で意図的に力を入れて眼を閉じる動きをした場合には、上眼瞼の下では 眼球を上に上げることを認識できる状態で 上眼瞼を閉じます。一方、反射的な閉眼は眼球の運動は認識できずに眼球はほぼ静止した状態(実際には微弱に動く)で、上眼瞼の生理的仕事をこなします。
 この2つの動作にはもう1つ違いがあります。それは上眼瞼の運動の方向性と上眼瞼の開閉の速度です。随意的に眼を閉じるという事は閉じる事のみの力を有しており、上眼瞼を開かない様にするという目的を持って眼を閉じます。表面的には眼を閉じている状態ですが開く事を制御している力を持って閉じている為に眼球が上眼瞼の下で上を向いているのです。簡単に言えば眼を閉じるだけの一方の方向性です。
  さらに麻痺した状態でこの様な動作を繰り返し練習すると、下瞼にも無意識に力を入れる様になってきます。これは丁度皆さんが眼を細める時にする動作になるのです。この様に神経の伝達力が100%満たない時に、差し引いたパーセンテージを他の運動に変えて行う動作が自然に新しく加えられてしまう可能性が充分にあるのです。病的共同運動の1つである閉眼時の口角の引き上げは、眼を細める時に使ういわゆる下瞼(したまぶた)を連動させて頬筋を引き上げ、結果的に口角を引き上げる外見を擬似的閉眼動作として作り出すと私は考えています。
  反射における まばたき の速度は非常に速い速度であり、上眼瞼にかかる力は意図的に力を入れて閉眼する力よりはるかに軽いと表現できます。そしてその仕事は上眼瞼の開閉であり、閉じて開いてという動作であり相方向の力が働く事になります。実は随意的にも反射に近い速度で力を抜いて連続的に瞬きができますが、その様子から反射における瞬きも眼球の動きが外見的には見受けられない感じではあるが、反射による瞬きよりは、動いていると考えられます。
 結論的にいえば、この眼の開閉運動も神経の回復割合を差し引いた分だけがストレスになり、そのストレスの分だけが随意運動によって強制的に行われる事になり、上の図で示す様に本来入れなくてよい力を入れ始める事になるのです。

  余分な力はいらない

 そもそも、顔の運動はしなくてよいという理由は、コンテンツに書いてあるのでここでは割愛させていただくとして、ここでは、むしろするべきでないと考える理由を1つ紹介した事になります。そして、今回の後遺症編のまとめに入りたいと思います。
 文中にも度々出てくる『力を入れて』という言葉は、本来入れなくてよい力と解釈していただきたいと思っています。それは30%しか動かないものを、100%動かそうと努力した結果に生じるものである事であると言う事です。その余分な力が巻き起こす問題のリスクの1つを細かく説明を私なりにすると、こう考えているという事です。
  そして、考えだけではなく、実際に毎日、麻痺した身体を、顔を、手を、足をこの手で触れて感じている私の実感からの解答です。本来、理論的な分野には顔を出す事のない私ですが、現代には理論的に説明(エビデンス)がなされないと、その信頼はなされない様ですが、みなさんに考えて欲しい事が1つあります。
  みなさんが麻痺になって、動かそうとしても動かないと思った事、そして指導的立場の人からもっと力を入れて!とか頑張って!など言われて、動かないもの仕方がないよ!と苛立を覚えた事はありませんか? 私は、みなさんが、動かない、ここまでしか動かないと言った時に、OKの100点をあげます。コンセントの差し込まれていない掃除機を一生懸命動かす事や、出力のあがらない掃除機を無理矢理動かす事は必要ないからです。
 『動かないんだから、どこに力を入れて良いのか解らないんだから!』その通り!。しかし、それを指導する人は当然のごとく麻痺になった事もないので、みなさんの歯がゆい気持ちなど実感できずに、ただマニュアル道理に力を入れさすだけで、はたして、正しい力で正しい筋肉を正しい神経を使って動かしているのかをチエックしているのだろうか?麻痺とはどういうものなのかを患者さんの角度からもっと臨床的に考察を入れても無駄ではないと思うのは私だけなのだろうか?いや、それは皆、麻痺になったみなさんが最も感じている事と思うし、私自身が実行に移しながら鍼治療とマッサージを使ってみなさんに答えを出してゆく事でよい事であって、理論的により 臨床的に答えを出すのが私の本来の仕事であるので、理論派の方にはご理解を是非ともいただきたいと考えています。

 第二章  病的不随意運動

 始めに、私は生理的な随意運動という言葉がある為に、今回みなさんに解り易くするために病的という言葉を用いておりますのでご了承をお願いいたします。
 さて、第2章では末梢性の顔面神経麻痺で見られる後遺症の1つをお話します。不随意運動と随意運動についての前振りからですので、病的な不随意運動についてです。この現象は、神経の過緊張における症状です。
 神経麻痺が神経機能の緊張不能状態とすると、その逆に神経機能の過緊張を起こすという事もあります。今回は顔面神経麻痺の後遺症という限定で、この病的な不随意運動のお話をしてみたいと思います。
 末梢性の顔面神経麻痺における、最も病的不随意運動が出易い場所が口角です。口角を引く動作における病的不随意運動は、麻痺の軽度、重度に関係なく、個人の神経の性質に関係するものと考えられます。つまり、もともと過緊張し易い神経組織の構成をそこに持ち合わせていたのではと推測しています。とりわけ、口角を引く神経枝は過緊張しやすい神経組織であると考えています。外観的には口角が痙攣をしている様相ですが、これは神経麻痺の後遺症として口角の病的不随運動が出ているもので、神経伝達における過緊張状態が口角を引く神経枝に出ているものです。
 その他のこうした過緊張が起こる部位として、側頭部にある神経枝で上眼瞼に関与する神経枝も臨床所見で確認しています。

 顔面神経麻痺を考える21のまとめ

 今回のお話は、いわば『力』がテーマです。神経の麻痺という言葉に、みなさんの頭の中で『リハビリをすれば治る』という発想に、それはどうかな?という私の考えの ほんの一部を紹介しました。
  ここで、みなさんにお話ししたいのは、プロの理学療法士によるリハビリテーション テクニックは、非常に高等な技術を使って患者さんの指導を直接行っているために、正確性が高いものである事を私は知っています。しかし、この顔面神経麻痺になると顔の運動やリハビリと称して、一枚の紙を渡されて自分でやって下さいと渡された9割の人は良い結果が出るが、残る1割の人が様々な問題をかかえ、その問題となる部分において初期的な処置が間違ったために 苦しむのは先生たちではなく患者さんである事を知っている私はあえてこうした文章でアピールしてゆきたいと思っています。
 そして私もみなさんと同じく、顔面神経麻痺をこうした形でやっつけにゆく一人でありたいと、毎日毎日、治療室でみなさんと泣いて笑っての日々を送っている一人です。
 コンテンツの数も、まだまだ書き足りないほどテーマがあるので できるだけ頑張って時間をつくってアップしたいと思っています。



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 顔面神経麻痺に関係する執筆内容のページです。是非読んでみて下さい。
 こんた治療院 <治療の窓>より抜粋しました。
 毎日、診察の合間にコツコツと執筆しながら早23年が経ちました。皆さんに1つでもお役にたてる事がありましたら、幸いと思いながら、今も尚治療の合間に書き続けている内容です。全国の方から色々な御質問などいただき、毎日心を込めて返信しています。そうしたみなさんの力で、今日まで一生懸命やっていて良かったと思うのは、インターネットのすばらしさの1つだと考えています。

 シリーズ
 顔面神経麻痺を考える

6.1 後遺症各論
<病的共同運動の強調>

7 小児の顔面神経麻痺
:ケア編

8 顔面体操と
顔面の運動は、
やってはいけない

10 顔の痛み 三叉神経痛

21 随意運動と不随意運動

23 やっつけに行く
今回は、
鬼軍曹の
独り言ですか?


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