皆さんは、赤血球という名前を聞いた事があると思います。この赤血球の重要なお仕事の中に、酸素と二酸化炭素の運搬があります。ヘモグロビンというタンパク質が、赤血球の細胞質の主要な構成で、これが酸素と結びついて各組織へと新鮮な酸素を送り届けるのが、赤血球の今回のお話に重要になるポイントです。
麻痺した神経は病理学上では、神経変性(ワーラー変性)を起こしています。この変性した神経は、もちろん自力での再生を始めますが、その神経本体は低酸素状態にあり、外部の助けを求めています。その助けとは、赤血球の運んでくる新鮮な酸素なのです。麻痺した神経に酸素を送り込むという方法は、神経にとって正に助けとなるのです。
ビタミンB12は、血液を造ったり、神経の再生を促したりする事で皆さんが処方されて飲んでいますが、それ以上に神経を助けてあげる事に必要なものが、この赤血球の運ぶ酸素です。
この赤血球は狭い所でも容易に酸素を運ぶ為に、ある特殊な変化をします。赤血球の大きさは直径約8μm厚さは2μmですが、自分の大きさの半分の狭い所にも、赤血球は変形しながら随所へと進んでゆきます。これを赤血球変形能といいます。この赤血球の変形能を高める事、すなわち赤血球変形能を手助けをする事が治療上に浮かぶ事は医学を学ぶものであれば当然と考えます。
さらに、この赤血球はATP(アデノシン三リン酸)が豊富であれば活性も非常に良い状態にあります。ATPという物質は、『生体のエネルギー通貨』といわれて、私たちの生体の回復に重要な役割を担います。お薬として処方された『アデホス』は、このATPを補う薬です。そしてこの顔面神経麻痺の回復にもこのATPが大きなポイントになっている事は、私の臨床経験からも非常に興味深い経験があります。軽く触れておきますが、妊婦の顔面神経麻痺の回復に非常に関係していると私は考えていて、同時にラムゼイハントの発病原因のカギを握るのも妊婦さんの身体のシステムだと考えています。機会があれば、この内容においても書いてみたいと思いますが。
この節のまとめとして、麻痺した神経が回復の為に欲しがっているものは、新鮮な酸素である事、その新鮮な酸素を運ぶ為に赤血球が活性化する必要があり、そのためにはATPが豊富に必要であるというお話です。
しかしながら、麻痺の原因により赤血球の行く手を阻むものがあり、その壁を乗り越えるべく赤血球が変形し、神経に到達してようやく低酸素状態を改善してくれます。