顔面神経麻痺
 
顔面神経麻痺を考える17
 
神経再教育    こんた治療院

 今回のお話は、再生された顔面神経を教育してゆくというお話です。非常に難しいお話ですが、私がなぜ?鍼治療がこの神経麻痺に有効なのかというお話を将来するためには、この神経再教育のコンテンツを書かねばならないため、今回はこのお話を書きたいと思います。


 神経の再教育とは

 何らかの理由において、神経麻痺を起こした末梢神経は変性(健康な状態にない)を起こしています。不全麻痺の場合はその変性の程度も低く、回復に向かう期間も短時間であり、早期に回復します。しかしながら、完全麻痺における神経の状態は、その神経の変性も原因によっては神経鞘(しんけいしょう)と呼ばれる中心部のダメージが大きい場合は神経が筋肉を起動するまでに3ヶ月以上もかかり、同時に神経の再教育というメニューを必要とします。
 この神経再教育のメニューは、皆さんが口にするリハビリテーションであり、こうした訓練は日常の生活動作を逸早く実現させる為には必要な訓練とされています。この神経再教育という言葉は、神経筋再教育とも同じく考えて意味は同じです。運動神経の回復とは筋肉を使った動作の回復という事で、イコールとして考えますが、<顔面神経麻痺を考える>の中では、私は神経再教育という言葉を選んで使って行きます。
 なぜ、この神経再教育が神経の回復の為に必要なのか?といえば、神経の回復には限られた時間とされるものがあるからなのです。それを医学では、プラトーという言葉を使って回復時間の終末を表現します。本来、口語におけるプラトーの表現は、スランプ状態や停滞を意味する言葉です。神経回復の上昇曲線が、すでに頂点に達したということをここでは表現します。
  末梢神経の麻痺の場合は原因によって各部それぞれにおける回復のプラトーは細かく違いを見せるものの、おおよそは発病後1年を境に大きくその回復の確率は大きくダウンしてきます。麻痺した神経回復の頂点ともいう時期に、予後良好つまり神経回復の完全修復がなされることを我々は願って治療をしてゆくのです。
 神経再教育の期間は、まずこの神経回復がプラトーに達する前に行う事が理想的であると考えているのが現代の医学の考え方であるといえます。それは、特に運動神経の場合は、支配筋の筋萎縮、および関節拘縮、強直を防ぐ事を同時進行で行う事をしないと、神経回復に見合った運動が失われる恐れがあり、末梢神経麻痺の評価では、神経そのものの回復を筋力や運動評価にて判断してゆくのが現状であり、神経本体の回復の割合を示すものはないゆえに、臨床的には筋運動が理想的に行われる事において、神経の回復と見なすとしています。そのために、筋力の低下を最小限に食い止め、神経本体の回復を待って同時に働きをさせていこうとする事がこの時期には必要であり、これを治療として考えているのです。
 また、神経が回復してもその筋肉を動かす為の伝達機能訓練をしていないと、神経はその伝達を筋肉に伝える事は容易にはできなくなる事もあり、そうした神経再教育の期間設定をプラトーに達する前に行う事が望ましいと考えます。

 末梢性顔面神経麻痺における神経再教育

 顔面神経という神経は、他の神経より多彩な仕事ぶりを発揮する神経であることは皆さんも承知のとおりです。まずは、感情の表現を表情筋を使って表現したり、食事をするときに口を動かしたり、味を感じたり、瞬きをしたり、さらに耳にいたってはアブミ骨を調整して音の調整をしたりといった事は思い浮かぶと思います。 そして、この顔面神経が麻痺することで、これらの機能が失われて不自由さを感じます。
 顔面神経の神経の回復は、他の末梢性の神経麻痺と比較すると、その回復の速度は早く、その理由の1つとして豊富な血管を持つ顔面部に位置している事であると私は考えています。また、顔面神経は脳神経の1つであり、こうした理由も回復の優先順位が考えられるでしょう。
 その為なのか、臨床現場に置ける神経回復の過程で起きる、神経混線を意味する病的共同運動は後遺症の代表的問題とされていますが、長い間にも現場で優先的に問題視されなかったのは、顔面神経麻痺の回復の速度が速い為に、その大半の麻痺は、ほぼ完全に完治してしまうからなのです。こうした現状から、臨床現場では積極的にリハビリと称して顔の運動を行わせる指導をしたり、低周波を使った治療をして一刻も早く回復をさせる試みをしてきたのが現状です。しかし、先ほど述べた大半に漏れた人はこうした事を続ける事によって更に問題が出てくる事は、<顔面神経麻痺を考える・後遺症編>で軽くふれていますが、病的共同運動の強調を引き起こす事になってくるのです。
 病的共同運動が起こる理由は、神経混線であるとされています。しかし、なぜ混線を起こすのかという問題に触れていかなければなりませんので、その点を軽くお話しいたします。
 神経の再生時は、損傷した神経の先端(中枢側)から扇状に枝を延ばすという回復の仕方をします。自分の終着点を探す様に、スプレー状に広がりを延ばしてゆくとされています。手や足の末梢神経の再生時には、顔面神経の様な大きな混線は見当たらない理由として、神経枝が単純であること、骨の溝や関節、筋肉の位置づけが明確に神経再生を促せる様になっている事が考えられます。
 また、麻痺した末梢側からの神経枝からも中枢側にジョイントを促す事が解っており、これらの再生における要素が、顔面神経の性格に加わる事で、そうした混線の要素がいくつか予想できてきます。しかし、実際に神経の枝が別のところに結びつくというのも、私にとっては不可解であり、私の頭の中では神経伝達機能の誤作動によるものと解釈しています。
 そのためにも、正確な神経の再教育が正式な神経ルート上で行われる事が、最もこの顔面神経麻痺の回復期に必要な方法の1つである事は何年経っても変わらないと思っています。だからこそ無闇な顔の運動や低周波による筋肉の他動的運動が、本来複雑な顔の表情を表現するための機能を単純化させる事は、おのずと臨床家ならば解っていただけると思います。単に神経が筋肉を動かせば良いというのは、この顔面神経麻痺には値しないのです。
 この末梢性顔面神経麻痺における、神経再教育はしかるべき医学の根拠のもとに正確に行われる必要があるはずで、単純な運動を勧めたり、患者自身に勝手に行わせる事における曖昧な神経教育では事態をよりいっそう病的共同運動の強調を招く事になることは、私は間違いのない事であると思っています。

  産まれてから今日まで、
  神経教育がなされていない身体の部位がある

 私はこの病的共同運動の問題に関して、1つの理論を考えています。それは神経が伝達されてこそ筋肉が動くということ。神経の伝達のミスジャッジから生まれるものと、強制的にミスジャッジを生み出す代償性の運動(トリックモーション)をどうやって封じ込めるかという事です。
 おしゃべりがまだできない幼児は、その表情も大人と比べると乏しい事が皆さんにも理解できます。言葉を覚えて話したり、自分の感情を言葉をそえて表に出そうとする様になると、段々と大人と同じ表情をするようになるのです。そうした幼児も、すでに顔の神経は整っています。ただ、そうした神経を使っていないだけです。段々と自然に伝達を試みて表情として確立してゆくのです。
 世界の人々の表情の出し方はその習慣や言語によって違いを見せます。総ての顔の機能を使って表情を表す事はしていません。つまり、神経教育ができていない動作があるという事です。そして、それを教育してゆく事で覚える事もできるのです。
 この事において、一旦教育されたものを再教育する(実際は病的共同運動が起こっているので、再々教育という事になるのですが)ヒントになっているという事です。
 非常に難関であるこの問題には、多くのリスクを排除しながらの治療計画が必要になって来ます。まずは、病的共同運動を強調させる動作をさせないことが重要ですが、これは精神面での根本的支えの下に、具体的に医科学的な指導を行ってゆくことが必要です。とかく、私の職業においては、一般人には解りにくい中国医学、東洋医学の専門用語を使って、混沌とした内容を理解させる先生が多いので、こうした事は患者の更なる不安を招く事になるので、私はあくまで西洋医科学的指導を重視してゆくことを支持します。そして、あくまで自然体で神経の治療をしてゆく事が大事であると思っています。

神経麻痺治療に欠かせないもう一つの治療すべきもの

 末梢性神経麻痺における完全麻痺の場合には、神経の変性という状態におかれていること。この時に、たいがいの神経を取り囲む組織に浮腫が起こっていると考えます。その浮腫を逸早く取り除く事に、早期の治療が必要なのです。この浮腫の原因の1つは、神経麻痺により神経組織への輸送が遮断された為に起こるもの、発病原因により組織が内部損傷を起こし炎症を防ぐ目的でリンパ液が集合するなどが考えられます。末梢性の顔面神経麻痺に、しばしば顔の痛み、耳の後の痛みを訴える人がいますが、触診における位置からリンパ節に相当する部位である事から、こうした状態であることを疑わせます。また、顔面神経減荷術における手術の際に、狭窄した箇所の拡大のみならず、神経浮腫の除去も行うこともあり、内部の環境状況を伺わせます。
  絞扼(こうやく)性<絞められたり、圧迫したり>の腕の神経麻痺においては、こうしたリンパの問題が表面には出ていない事から、ヘルペスウィルスによる神経障害においては最もそうした神経をとりまく病態の観察が必要になり、神経麻痺を脱却させるための方法となると、あくまで私は個人的に考えています。更に、神経を取り巻く血管の修復再生も同時に必要になり、こうしたミクロの作業が麻痺した神経には必要な回復条件になると思っています。



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 こんた治療院 <治療の窓>より抜粋しました。
 毎日、診察の合間にコツコツと執筆しながら早23年が経ちました。皆さんに1つでもお役にたてる事がありましたら、幸いと思いながら、今も尚治療の合間に書き続けている内容です。全国の方から色々な御質問などいただき、毎日心を込めて返信しています。そうしたみなさんの力で、今日まで一生懸命やっていて良かったと思うのは、インターネットのすばらしさの1つだと考えています。

 シリーズ
 顔面神経麻痺を考える

6.1 後遺症各論
<病的共同運動の強調>

7 小児の顔面神経麻痺
:ケア編

8 顔面体操と
顔面の運動は、
やってはいけない

10 顔の痛み 三叉神経痛

21 随意運動と不随意運動

23 やっつけに行く
今回は、
鬼軍曹の
独り言ですか?


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