顔面神経麻痺
 
顔面神経麻痺を考える16
 
<総合的原因究明編の2> 
  こんた治療院

 今回の<原因究明編2>は、「顔面神経麻痺をきたす疾患」と題して原因の立場から、顔面神経麻痺を考えて行きたいと思います。顔面神経麻痺を考える4の原因究明編とは違った形でのお話を書いて行きたいと思います。
 私の仕事は、麻痺の治療として鍼治療やマッサージをする事ですが、病気をどれだけ理解するかという事においては他の誰よりも意欲的です。病気になった人の本当の苦しみは、その当人だけしか解りませんが、医療に携わる者は、せめてその病気が何なのかを知ってこそ、そうして苦しむ人たちと共に治療という道を歩んで行く資格を得られる者と思っております。
 故に、この顔面神経麻痺という問題に、どのような深い意味があるのかを考えて行きます。


 顔面神経麻痺に隠された問題

 このように題すると、皆さんはびっくりされると思います。それは、顔面神経麻痺が原因不明のベル麻痺といわれるものが、かなりのパーセンテージを占めるからです。しかしながら、平成の現代では、かなりの検査技術の発展や医師の努力によって、そうした中にもはっきりと原因が診えて来ているものがあり、発病当初はベル麻痺と診断されたものも、そうした技術と医師の高い診断において原因解明されてきているのです。
 こうした文面は、とかく顔面神経麻痺になった人たちの不安をあおる事にもなりまねませんが、私たちが今後、どのように自分の身体をケアして行く事が必要なのかという希望へ繋がって行くという事において、私は執筆の意味があるのではと考えています。

 顔面神経麻痺が現れる原因・合併疾患(ベル麻痺を除く)

 まずはその原因と称されるものを区分けした表を作成してみました。(末梢性、中枢性問わず)

   内    因
ウィルス性
水痘ウィルス
単純ヘルペス1型
ポリオ(エンテロウィルス)
自己免疫性
ギランバレー症候群
フィッシャー症候群
腫瘍性

耳下腺腫

聴神経腫瘍

顔面神経鞘腫

頭頚部にできたグロームス病<血管性腫瘍>

脳性
( 中枢神経)

一般的、中枢神経性顔面神経麻痺

ミヤール・ギュブレール症候群
交代性麻痺 (末梢性顔面神経麻痺)

血管炎症性

チャーグ・ストラウス症候群
(churg-strausssyndrome)

代謝性

高度な糖尿病<ニューロパチー>

感染性

ライム病(ボレリア感染)

ハンセン病(らい菌)<弱感染>

その他

サルコイドーシス<神経障害性>

先天性

メビウス症候群<顔面神経不在>


   外    因 
外傷性
側頭部外傷
圧迫
切断
外科手術性
各種腫瘍摘出手術
圧迫
切断
胎児性
胎児期に母体内で圧迫


  ウィルス性を疑う末梢性顔面神経麻痺

 まず、平成のDr.であればこの末梢性の顔面神経麻痺に関して、この様な事をまず先に考えるでしょう。ラムゼイハント症候群では、顔面神経麻痺の発病後4〜5日程度で耳の中に水疱ができた場合に、診断としてラムゼイハント症候群である。つまり、水痘ウィルスが原因であるとその時点で判定していました。しかしながら、このような状態で抗ウィルス薬を投与しても、水痘ウィルスは既に発症から4、5日。外来受診まで約1週間経過した状態では、事実上、活性しきっており、その効果の期待も半減以下です。また、血液検査(免疫・血清)を行った結果待ちでも同じ事です。それ故に、ステロイドと並んで同時投与がまず行われる治療が主流になったのが現在です。
 抗ウィルス薬としてアシクロビルとバルトレックスが使われますが、どちらも同じ薬です。バルトレックスはアシクロビルのプロドラック(ピンポイントに効果を発揮する為に体内でアシクロビルに変換される)なのです。 この抗ウィルス薬は、既に抗体として体内に滞在しているウィルスの新たな増殖を防ぐという役割を担っています(すでに滞在しているウィルスには無効とされている)。水痘ウィルスや単純ヘルペス1型の増殖を抑えて、神経への負担を減らすという考え方を持っていますが、中でも単純ヘルペス1型は脳への影響もあり、そうした事に先手を打って投与する先生も多くなっている様です。
  この単純ヘルペス1型の元来の潜伏先は、神経節です。水痘ウィルス、単純ヘルペス1型、2型も同様に神経節に潜伏します。この神経節とは、中枢神経以外の末梢部における神経細胞の集合体を指します。そしてこれらのウィルスは神経の外套膜にて、不活化の状態で人と共存しているのです。中でも三叉神経節と脊髄後根神経節が潜伏場所とされています。
 では、どんな状況でこのヘルペス属の不活化したウィルスが、再び活化をするのか、その点に関しては妊婦さんの話を交えたところでお話したいと思います。

  妊婦に発症する末梢性顔面神経麻痺

 妊婦さんにも、この末梢性顔面神経麻痺が見られます。妊娠後期、正確には妊娠8ヶ月を過ぎた妊婦さんに、ラムゼイハント症候群による顔面神経麻痺を発症します。水痘ウィルスによるものですから、帯状疱疹として肋間神経痛もこの時期に出てくる人もいます。私なりの解説として、妊娠中期には妊婦さんの免疫力はかなり高い状態(通常は妊婦さんはホルモンの分泌が盛んであり、このホルモンが実は免疫力を活性化(賦活化)しています。 つまりこうした免疫力が落ちない様に守られているのが通常なのです。)にあるのですが、妊娠後期にはその高められた免疫が、標準の値にもどることが知られています。こうした免疫力の変化は妊婦に顕著に起こるので、妊婦に起こる可能性のある問題であると考えています。当然ながら、一般人でも男女問わず、同じく免疫力の変化が生じた場合に、不活化から活化の変化を起こすと私は考えています。その免疫の変化の落差を正比例で考えると見えてくるものがあると思っています。
 免疫力変化によるウィルスの再活性化原因は、複数の条件が一致した時に生じる事が考えられ、二度目の妊娠中に同じ様にウィルスが再活性化するのかといえば私の経験からはその答えはNOであり、麻痺後に二度目の出産をしてもほとんど発病はしません。つまり、同じ母体であり、同じく妊娠出産の過程をたどっているという事は、条件的には全く一緒でありながらも再発しないのはなぜか?そこに発病のヒントがあると思っています。そしてこの事は、二人目、三人目を産みたいと考えている方へは少しでも役に立つ情報でもありますね。

 おまけ。「日和見感染(ひよりみかんせん)」という言葉は聞いた事があるでしょうか。この日和見感染は、極端な免疫力低下が起こっている時に、健常者では罹る事が極めて低いウィルスや菌によって感染する感染症です。サイトロメガロウィルスはヘルペス属のウィルスで、こうした日和見感染の代表的なウィルスです。ちなみに、このサイトロメガロウィルスはどのようにして一般的に私たちに宿るのかといえば、母からもらう母乳の中にあるのです。子供は母乳の中に含まれる母からもらったこうした抗原を抗体に変えて免疫を作ってゆくのです。

 免疫に関する問題で起こる末梢性顔面神経麻痺

 ギランバレー症候群という病名で知られるこの病気の原因は、自己免疫疾患という病類がなされている。ギランバレー症候群が全身性であるのに対して、末梢性のものをフィッシヤー症候群といっている。この時にも末梢性の顔面神経麻痺が起こるが、ギランバレー症候群は両側性に起こる事が多い。私の臨床経験では初めは片方で、3〜7日程度でもう片方が発症するといった感じである。総てのギランバレー症候群が顔面神経麻痺を起こすわけではない。
 この病気は自分自身の免疫が自己の末梢神経を攻撃するといった問題で起こります。攻撃された運動神経は炎症を起こして、麻痺を起こします。とりわけ神経の軸索(中心部)を攻撃するものは軸索(損傷)型、神経軸索の周りの髄鞘(ずいしょう)を攻撃する型は脱髄型と言われています。
 この病気で注目すべきは再発するきっかけを作るとされている、インフルエンザ予防接種、インターフェロン薬などにおける副作用である。ギランバレー症候群と診断された人はこの点における注意はできているが、症状が軽度で医師の診断が不確定のケースの人は、こうした事で再度病気を引き起こす事になるので要注意です。

 血管の炎症で起こる末梢性顔面神経麻痺

 チャーグ・ストラウス症候群(churg-strausssyndrome) は、アレルギー性肉芽腫性血管炎の事で、全身の動脈に炎症が起きます。麻痺は末梢の神経に非対称に現れます。手足の麻痺や顔面神経にも麻痺が出ます。ステロイドを大量に投与する為に、副作用のケアも重要です。しかしながら、ステロイドの御陰で命が助かる事ができる病気です。一般的によく見かける病気ではありませんが、私か過去に携わった事のある病気として取り上げています。


 感染で起こる末梢性顔面神経麻痺

 ライム病という病気があります。ボレリア感染で起こるこの病気は、ダニや野鼠を媒体として広がります。多くは欧米で起こっていますが、日本でも長野県の高地、北海道でもライム病が出る事がありますが年間報告例は少ないです。主には寒冷地で感染拡大します。インフルエンザ様の症状を呈したり、関節炎やその他の重篤な症状を伴います。この場合の顔面神経麻痺はベル麻痺様の症状であるそうです。
 また、 ハンセン病からも顔面神経麻痺が起こりますが、私たちの関与する問題とは病理学上違ってきますので、割愛させていただきます。

 サルコイドーシスで起こる末梢性顔面神経麻痺

 特に神経サルコイドーシスという分類に際しては、サルコイドーシスそのものが原因不明であり、自然寛解がその半数以上を占める事も注目すべきものだと思われます。単独に神経サルコイドーシスが起こった場合にもベル麻痺との診断が下る事もありえます。通常は肺のレントゲン検査や血液検査、眼科の検査における所見でサルコイドーシスの診断が出てきますが、顔面神経麻痺症状が先行した為にこうした検査を行っていない病院や先に単独で神経サルコイドーシスが起こったケースでは見逃し易いのではと思われます。更に、末梢性顔面神経麻痺における治療薬としてステロイドが使われますが、サルコイドーシスでも同じステロイドが使われますので効果として同じであるわけです。
 私の臨床の範囲での話でありますが、サルコイドーシスによる末梢性顔面神経麻痺は、神経麻痺も不全麻痺が多くステロイドによる回復が目覚ましいケースが多いのではと思います。その理由として、神経直接の問題ではなく血管炎による虚血性の神経麻痺であるからだと考えます。

 腫瘍で起こる末梢性顔面神経麻痺

 耳下腺腫の圧迫により、顔面神経麻痺が起こります。耳鼻科受診でないケースでは、まずベル麻痺との診断が出易いと思います。血清検査によるウィルス反応も無いので、MRI検査を撮らない限り外見からは触診しないと区別がつきません。 腫瘍による顔面神経麻痺は、一定期間には、まず顔面神経は圧迫を受けていますので回復はしません。逆に一定期間で回復徴候があれば可能性は非常に低いのです。
 耳鼻科では、まずは耳下腺を中心とした触診により、こうしたケースでは疑いをかけるものですが、神経内科ではそうした内容はMRIの診断が頼りですが、耳下腺腫を疑う目を持たないと見逃してしまう可能性があります。
 聴神経腫瘍で、顔面神経を圧迫して麻痺が起こりますが、聴神経腫瘍では先行する諸症状にて既に診断をされているものが多く、顔面神経麻痺を起こすまでに腫瘍を拡大させるケースは現代の日本にはほとんど無いと思われます。この聴神経腫瘍にて、顔面神経まで入り込んだ腫瘍を剥離切除したが神経が回復しないというケースがある。
 顔面神経鞘腫という病気があります。神経鞘腫は顔面神経のみならず他の神経にもできます。神経鞘腫(シュワンノーマ)は良性の腫瘍に分類されています。この神経鞘腫が顔面神経に起こるケースを顔面神経鞘腫といいます。この場合の診断はMRIで行います。神経鞘腫の大きさによって、顔面神経に対する影響を持つ様です。よって小さい鞘腫がいくつも重なる場合は、顔面神経麻痺は軽度で起こり、これが同じ患側に反復して起こる事が考えられます。

 母体内で起こった圧迫によると
 考えられる末梢性顔面神経麻痺

 私の経験で1例だけあるのが、母体内の圧迫において顔面神経麻痺になったケースがあります。これは非常にめずらしいケースです。神経麻痺の回復は完治です。つまり胎児期に一旦完全に顔面神経が作られて後に麻痺を起こしたものだといえます。帝王切開にて分娩したので、産道を通る際に問題が起こったものではないそうです。
  子供の診察は、乳幼児の表情は非常に乏しいので熟練した観察ができないと難しいので、どの程度回復しているのか解りづらいものです。小児のコンテンツをアップしてすぐに診察したケースでした。 私が診察したのは1年後、つまり1歳児になってからですが総て問題なく機能しておりました。

 繰り返して起こる末梢性顔面神経麻痺

 この顔面神経麻痺は、再発という可能性は否定できません。どの様なパターンでも内因として区分けしたものは総てそうした病理条件が整えば、こうした再発の可能性が高まるという事です。

特にウィルス性では、免疫力の低下という観点における問題は、免疫学上の詳しい解説が必要になり、とうてい私のレベルでは解説は難しいのですが、臨床上「日和見感染」を引き起こす程度までに免疫力が低下している状態は危険ゾーンであるといえるでしょう。長い間、風邪症状が治らないといったケースでは早々に病院に行く事が大切です。昨今では市販の風邪薬の効果が良い様ですが、長引く風邪症状は問題が違うケースを疑いましょう。

同側性に頻繁に起きる顔面神経麻痺は顔面神経鞘腫の疑いがあり、めまいや難聴といった随伴する症状も持ち合わせているようです。

ギランバレー症候群による顔面神経麻痺の経験者は、インフルエンザ予防接種、インターフェロン投与などによって再発する事があります。

神経腫因性の再発パターン

その他(最も原因不明の再発パターン)

 顔面神経麻痺を考える16 まとめ

 顔面神経麻痺の治療に携わってゆくと、様々な難関が私には見えています。今回の「顔面神経麻痺を考える16」は、ベル麻痺診断の疑問を原因究明2という形でコンテンツに書く事は今後の再発防止に繋がって行くと良いかなと思っております。
  鍼治療は神経麻痺に効果があるのかという質問に対して、ただ効果があると私は言いたくない性格なために顔面神経麻痺のコンテンツが今後も更に増える可能性はあります。
 小さな 田舎の治療院で、コツコツといろんなことを考えながら臨床を通じて皆さんに様々な事を提供して行きたいと思います。この病気に悩む人のために、こうした事は必要だけど誰もやらない、ならば私がやってみようかと始めた事ですから、これからもがんばります!みなさんの笑顔を取り戻す為にも。



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 顔面神経麻痺に関係する執筆内容のページです。是非読んでみて下さい。
 こんた治療院 <治療の窓>より抜粋しました。
 毎日、診察の合間にコツコツと執筆しながら早23年が経ちました。皆さんに1つでもお役にたてる事がありましたら、幸いと思いながら、今も尚治療の合間に書き続けている内容です。全国の方から色々な御質問などいただき、毎日心を込めて返信しています。そうしたみなさんの力で、今日まで一生懸命やっていて良かったと思うのは、インターネットのすばらしさの1つだと考えています。

 シリーズ
 顔面神経麻痺を考える

6.1 後遺症各論
<病的共同運動の強調>

7 小児の顔面神経麻痺
:ケア編

8 顔面体操と
顔面の運動は、
やってはいけない

10 顔の痛み 三叉神経痛

21 随意運動と不随意運動

23 やっつけに行く
今回は、
鬼軍曹の
独り言ですか?


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