顔面神経麻痺におけるホウレイ線の強調は一言でいえば、神経回復時における病的共同運動の仕業であるといえますが、私はこのホウレイ線の強調においてもう一つ踏み込んだ考えをお話しいたします。それは自然にも老化という過程においてもこのホウレイ線が深くなるという事実をふまえての話です。
臨床観察からこうしたホウレイ線の強調を診てゆくと、口輪筋の緊張との関係が見えてきます。つまり口輪筋の生理的緊張が失われている場合に、このホウレイ線が強調する条件を生み出すということです。老化においてのホウレイ線の強調は、左右のホウレイ線が強調されてきます。この事は、口輪筋とそれに付着している小頬骨筋大頬骨筋、頬筋、上唇鼻翼挙筋の関係にあると考えられます。
口輪筋の仕事は、唇を閉じる事です。老化における口輪筋への筋力低下(筋緊張低下)や歯並びを主体とした口腔内の形態の変化(例として、入れ歯除去後の口輪筋にできるしわ)において口輪筋のゆるみが見られます。するとこの時に顔面の表情として、同時にホウレイ線が強調されて見えるのです。
頬筋の仕事は頬をふくらまし、口の中の食べ物などが上手に噛める事をサポートします。顔面神経麻痺になると、この頬筋も麻痺し口の中をしばしば噛んでしまいます。頬筋は口輪筋に付着しています。口輪筋に付着する総ての筋肉は、唇を放射線状に開くために仕事をします。
老化時の状況としては、口輪筋が緩み、その他の小頬骨筋大頬骨筋、頬筋、上唇鼻翼挙筋は正常を保っているが、その状況としては頬筋を中心に頬が引き上げられている状況であり、結果的にホウレイ線が強調されていると考えます。